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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1550号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の申立

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の本訴請求を棄却する。

(三)  被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載一の建物につき大阪法務局東大阪支局平成四年四月二日受付第四七六六号、同目録記載二の建物につき同法務局同支局平成四年四月二日受付第四七六七号の各根抵当権設定仮登記に基づき、同目録記載一、二の建物につき原判決添付別紙登記目録記載(但し「根抵当権設定仮登記」を「根抵当権設定登記」と改める)の共同根抵当権設定本登記手続せよ。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

二  事案の概要等

本件事案の概要及び当事者の主張は、次に付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」及び「第三 主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目表五行目の「甲第二号証」を「甲第一号証」と改める)。

1  控訴人の主張

(一)  本件各建物は、いずれも老朽化した旧建物を取り壊し、新築建物として控訴人からの融資により建築されたものであり、建築以前から控訴人に対する債務の担保として提供する旨の約定があった。本件各建物は、控訴人からの融資がなければ建築されなかったものであり、控訴人の融資と本件各建物は密接不可分の関係にあり、いわば不動産先取特権が認められる場合に酷似するものであって、その利益状況は控訴人を充分に保護しなければならない。

(二)  最高裁判所平成五年一月二五日第二小法廷判決(民集四七巻一号三四四頁)は、特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れた金員による当該債務の弁済が破産法七二条一号による否認の対象とならない旨判示し、右弁済行為が「破産債権者の共同担保を減損するものではなく、破産債権者を害するものではない」との言い回しにより、借り入れと弁済との密接不可分であることに着目したものであるところ、右判旨を敷衍すれば、本件において、破産者の控訴人からの借り入れと本件担保設定とは密接不可分の関係にあり、右借り入れと弁済と同じ関係にあるといえる。

2  被控訴人の認否

控訴人の主張は争う。

三  当裁判所の判断

次に付加するほか、原判決の理由説示のとおり(原判決第四)であるから、これを引用する。

1  控訴人は、本件各建物は、控訴人からの融資により建築されたものであり、建築以前から控訴人に対する債務の担保として提供する旨の約定があったと主張する。

確かに、証拠(甲第四号証)によれば、債務者を興亜工業株式会社(以下「破産者」という)、担保提供者を同株式会社代表者である信川奉立として、同人所有の土地(本件各建物の敷地)を担保に供しているが、その地上に建物を建築した場合は、これを直ちに控訴人に追加担保として差し入れる旨の平成三年一〇月一一日付念書(同月一五日確定日付)が、破産者から控訴人に差し入れられていることが認められる。

しかしながら、(1) 破産者の右念書の確定日付当時、既に本件建物が完成していたことからすると、右念書は、その文言どおり、将来本件各建物を追加担保に供する旨の誓約に過ぎないものと解され、これによって、確定的な根抵当権設定契約が成立したものとは認め難いうえ、(2) 前示のとおり(原判決第二及び第四)、控訴人は、破産者の本件不渡りを知って、その後仮登記仮処分決定を得て本件各仮登記を経由したこと、(3) 本件各建物が新築されてから、本件各仮登記がなされるまで六か月近く経過していることからすれば、控訴人が経由した本件各仮登記は、仮登記仮処分命令を得てなされたものであっても、債権者平等の理念を害するものとして、破産法七二条二項又は七四条の否認の対象となると解するのが相当である。

2  なお、控訴人は、本件各建物は、控訴人からの融資がなければ建築されなかったものであり、右融資と本件担保設定とは密接不可分の関係にあるから、本件担保設定により破産債権者の共同担保を減損するものではないとする。

しかしながら、右主張が採用できないことは、原判決の当該理由説示のとおり(原判決第四、二)である。

控訴人の引用する平成五年一月二五日の最高裁判所判決は、事案を異にし、本件に適切ではない。

四  結語

よって、被控訴人の本訴請求はこれを認容すべきであり、控訴人の反訴請求は棄却を免れないところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

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